とある休日の朝ー

部室でユニフォームに着替えていると、観月の携帯が鳴る。
声を落として部室の隅で何やら話し込んでいるが
電話を終えたその表情は、明らかに不機嫌であった。

その様子を見ていた赤澤が気を遣って声を掛けてみる。

「観月どうかしたのか?」

「…やれやれ、親からの呼び出しですよ…。
 例年よりサクランボの収穫が多いとかなんとかで取りに来いって…。
 送ってくれたらいいものを…何でボクが…」

「おお!それはいいじゃないか!最近全然帰ってなかったし、
 きっとお前の顔が見たいんだって!」

「部長?何だかやけに嬉しそうですね?」

「い、いや別に…」

普段特に気が利くわけではない赤澤が
理由をつけて親に会いに行くことを後押ししてくるので
観月は少し怪訝そうな顔をしていたが、
“後は頼みます”と告げると、渋々部室から出て行き
親の元へと向かったのだった。

そして観月が出て行ったのを確認すると
赤澤は喜びで叫びだしたい衝動を抑えつつ、
レギュラー陣を部室へ招集する。

「赤澤どうしたの?観月がいないけど…」

「アイツ親からの呼び出しで久々に実家に帰ったんだ!」

「クスクス…それでそんなに嬉しそうなんだね」

「も、もしかして“あの計画”遂に実行するつもりだーね?」

「柳沢先輩“あの計画”って?」

不思議そうに尋ねる裕太に
3年勢は以前より考えていた計画を伝える。

「そっか、裕太は知らない頃から言ってたんだっけ」

「そうだーね!俺たちが長年計画していたあの作戦!」

「聞いて驚くなよ!その名も“鬼の居ぬ間に詮索”作戦ー!!」

拍手でもしそうな勢いで赤澤が自慢気に話す。

どうやら観月の部屋に未だかつて入れて貰ったことがない部員たちは
いつか観月が不在の際に部屋に入って逆調査をしようと
前々から決めていたのだった。

ただ、観月の厳戒態勢は鋭い上に
ここ最近は長期休暇も実家に帰ることがなく
このタイミングを心から待ち望んでいたのだった。

「つまり、先輩たちは観月さんに内緒で
 こっそり部屋に侵入しようということですね」

「そうだ。ちょっと詮索してみようかと思ってな。
 何か観月の弱みでも出てくるかも知れないし。裕太も来るだろ?」

「え…いや…それはいくら部長でもマズイんじゃ…」

「大丈夫だって。金田は来るよな?」

「…っい、いえ…遠慮しておきます」

結局、相手は観月ということもあり、
裕太や金田は来年もあるため万が一を考えると怖くなり辞退し、
赤澤・柳沢・木更津・野村の3年レギュラー陣だけで
決行することになった。




寮に行き、まずはダメ元で観月の部屋を開けてみる。
当たり前だが、もちろん鍵はかかってあった。

「やっぱり鍵かかってるだーね」

「やはりな」

「だと思ってほらこれ持って来たんだ」

「淳、それってヘアピンと針金だーね」

「そう。これで…こうやって……こっちをこうするとその内……」


カチッ…


「ほらね」

「淳、凄いだーね!!」

「よく亮の部屋をこっそり開けたりしてたからさ」

木更津の妙な特技によって禁断の観月の部屋が開けられた。
4人は木更津の匠の技に感謝し、観月の部屋に入れる喜びで息を呑む。

「ほら2人とも入るぞ」

「ひぃ~ドキドキするなぁ」

中に入るとまず4人は机の周辺へと集まった。

「やっぱり観月のことだから引き出しの中もキレイだーね」

「おい、これって各校の戦略ノートじゃないか?」

「へぇ他にも色々あるなぁ。弟くんや金田も来れば良かったのに…」

最初はドキドキしていた4人だったが
入ってみれば、気になるものがズラリ。

バレないようにあちらこちら見て行き、
各々が気になるアイテムを見せて観月の趣味を楽しむ。

「なぁこれ見ろよ!観月の枕の趣味悪っ!紫のバラだってさぁ…」

「クスクス…赤澤、このクローゼットの中のも凄いよ。
 まさかこの服で外を出歩いたりしないよね?って服がいっぱい」

「観月のセンスはよく分からないだーね」

「みんな見て!アルバム発見!」

「でかしたノムタク!」

「あ、小さい頃の写真もあるみたい」

「うわぁ観月…愛想ねぇー」

「この歳で全てを悟ってるような目をしているだーね」

暫しみんなでアルバムを見て満足した後は、再び各自捜索に入る。

「こうやってるの観月に見つかったら怖いよね」

「大丈夫だって。アイツ今頃実家に向かってるんだしな」

「お~このベットフカフカだーね」

そういって柳沢がベッドに寝転び、子どものように飛び跳ねる。
その時、柳沢の目に見てはいけないものが目に入った。

鳥肌が立ち身震いをする。

「ちょ…ちょっ……た、大変……た、たたた………」

「慎也どうしたの?」

「み、み、みづ……観月……」

「観月?」

柳沢の指差す方に全員が視線を移すと、
そこには赤澤の情報で、実家に帰ったはずの観月本人が。

この上なく怒りに満ち溢れているのが分かり、
一瞬でその場が凍りついた。

「あ、あの観月…その…これは……」

「お、俺たちはその……」

「貴方たち!!何です?これは!?」

まさか帰ってくるとは思わず呆然とする4人。
観月の怒号に、何も言えずその場に立ち尽くす。

「全く、人がいない隙を見てこのあり様ですか。
 これじゃあ泥棒と変わりないですよ?人の部屋に勝手に…」

「物は取ってないだーね」

「柳沢!物を取らなければ何をして良いとでも?」

「う……」

もちろんみんなして今回の件は自分たちが悪いと自覚はある。
ただ、予想外の帰宅に戸惑うばかりで、
言い出した張本人の赤澤が話題を変えるために質問をした。

「っそれはそうと何で帰ってきたんだ?」

「はい?」

「実家にサクランボを取りに行くって…」

「…やれやれ相変わらずですね、貴方は。
 ボクは取りに行くと言っただけで、実家まで行くなんて
 一言も言ってませんよ」

「え……」

「姉が駅まで持って来てくれたんです。それを取りに。ほら」

そう言って紙袋に入った箱を見せる。
その瞬間、部員の怒りは勘違いをした赤澤に集中した。

「「「赤澤~~!!」」」

「…わ、悪かった!!ほんの出来心で…」

「出来心も何もありません!罰として貴方たち4人は
 これから3週間、コート準備に後片付け、寮の掃除セットで
 きっちり行なってもらいますからね!!」

「そんなぁぁぁ~」

「せめてどっちかにして欲しいだーね」

「そして、もちろん貴方たちは
 このサクランボを食べる権利はないですから!」




そして、その日の夜ー

「んー美味しいですね!どうです裕太くん、金田くん?」

「う、美味いっすね…」

「…は、はい」

「いいですか2人とも。バカな先輩を真似ると
 あぁなるところでしたからね、貴方たちの選択は正しかったです」

「は、はぁ…」

「ほらもっと食べて良いですよ。
 これは佐藤錦といって山形で最も美味しいサクランボなんです」

「あ、ありがとうございます…」

その光景を恨めしそうに眺める先輩4人。
そして、観月の怒りを免れた裕太と金田は
美味しいサクランボを食べることができたものの
先輩たちからの視線に挟まれ、
美味しさ半減だったことは言うまでもない。



ーENDー



≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ルドっ子日常話の第2弾!観月のサクランボネタが
使いたかったんですが、結果的にこんな話になってしまいました。
珍しく不二周助が出てこないネタです(笑)
3年レギュラー組はイタズラが好きそうなので、
3年だけで行く流れにしたんですが、
恐らくこの計画を提案したのは木更津と赤澤かな。
そこに柳沢が便乗して、作られた計画だと思います。
裕太と金田は命拾いしましたが、
暫くはこの後先輩達に恨まれてる事でしょう(*>ω<*)
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