Saint Valentine's Dayー
毎年恒例のバレンタインシーズン。
此処、聖ルドルフ学院でもチョコレートの受け渡しが行われていた。
「木更津先輩!あの……これ……受け取って下さい//」
「ありがとう」
部活中に呼び出し、人目を気にせず渡す人。
「観月くん、これ…バレンタインデーだから…//」
「まさか君から頂くとは…。ありがとうございます」
放課後2人きりの時に、さり気なく渡す人。
「赤澤くん、義理だけどね」
「あ、サンキュ」
思いっきり“義理”であることを強調して渡す人。
「柳沢!チョコ食べる?」
「な、なんだよそれ…」
もはやバレンタインでも何でもないかのように渡す人。
このようにバレンタインと言っても様々な受け渡し方がある。
そして、不二裕太の場合はー
「……………あ」
部活を終えて寮に戻ると、寮の入り口に置いてあったのだ。
ピンクの包装紙に包まれたプレゼント。
包装紙の上に“不二裕太くんへ”と書かれたメモが貼ってある。
「あーっ!おい観月、裕太にチョコだーね!」
「おや、珍しいこともあるもんですね」
「クスクス…裕太もチョコが貰えるようになったんだね」
「…べ、別に欲しかったわけじゃ…。
第一、こんな所に置くなんて一体誰が…」
「そうは言っても嬉しそうだーね!」
「もうやめてくださいよ!」
「でも裕太くん、食べるのはお止しなさい。
見るからに手作り。そして誰が置いたかも分からないなんて
そんな得体の知れないものを食べるのは危険ですからね」
「わ、わかってますって!」
先輩からの忠告を受けたものの、すぐに捨てることもできず
ひとまずプレゼントを寮の部屋へ持ち帰った裕太。
プレゼントを眺めて暫し考える。
(一体誰が…?)
食べる食べないは別にしても、送り主は気になる。
中に差出人の名前くらい書いてあるだろうと思い、開けてみた。
中はハート型の箱に手作りと思われるチョコレートが
ぎっしり詰まっており、甘いものが好きな裕太は食べたい一心だったが、
底に入ってあったメモが目に留まる。
チョコレートを避けて取り出し読んでみると、
メモには『本日17:30に○△公園に来てください』と
それだけが書かれてあり、差出人は不明。
時計を見ると17:20。今から走って行けば間に合う距離だ。
名前がないので不思議に思ったが、これまでバレンタインデーに
チョコレート貰ったことがなかった裕太は、これが普通だと思い込み
急いで寮を出ると、メモに書いてあった公園へと向かう。
…慌てて出て行ったため、メモが落ちたのも気付かずに。
慌てて寮を飛び出した裕太に気付いた観月は不思議に思い
寮の入り口へ様子を見に行くが、そこで落ちていたメモを見つけた。
さすがに1人で寮を抜け出すわけにもいかず、
柳沢と木更津を道連れにして、裕太の後を追うのだった。
そして、観月たちが公園に着いた頃には時計は17:30を回っていた。
公園には人影もなく、裕太が1人で待つ姿が。
「さて、この辺りなら陰になっていますし、大丈夫でしょう」
「一体どんな人だろうね…クスクス」
「…あっ女の人が現れただーね!」
「ボクの位置からは見えませんね。どんな女性です?」
「ん~ウチの学校の生徒じゃないだーね!キレイな女の人だーね!」
「ここからじゃよく見えないなぁ」
裕太にバレないようにつけていったため、
隠れていると、ちょうど公園の木が邪魔をして
観月や木更津からは様子が見えなかった。
柳沢に解説を頼むが、次第に解説をする柳沢の声に力が入る。
「裕太も隅に置けないだーね!
うわっ頭を撫でられてるだーね!?あ…払いのけた!」
「子ども扱いしないで下さい!とかだったりして…クスクス」
「くっそ~!マフラーまでプレゼントされてるだーね!」
「柳沢くん、声を落とさないとバレますよ!」
「あぁすまないだーね…ってぉわっ!めちゃくちゃキレイな人だーね!」
「もしかして実は彼女がいたとか?」
「くぅ~~アイツ俺たちを騙していただーね!!」
「柳沢!声が大きい!!!…っ…しまった」
嫉妬から暴走する柳沢を止める観月の声に力が入り
柳沢以上の声を出してしまい、あたり一面に響き渡る。
もちろん公園にいた裕太も気が付き…
「……先輩たち、何やってんスか?」
「…ははは……バレちゃっただーね」
「さては先輩たち後をつけてきたんですね!観月さんまで…
プライベートなことなので放っておいてくださいよ!」
「い、いえボクは裕太くんの素行調査をね」
「結構です!!」
「裕太…?どうしたの?」
そこへ心配そうに、先ほど裕太と一緒にいた女性が現れた。
「姉貴…何でもない。先輩たちが…」
「あら、いつも裕太がお世話になってます」
「…裕太くんのお姉さん!??」
裕太の相手…もとい、プレゼントの送り主が
裕太の姉だとわかり一同は勘違いから失笑する。
「失礼しました。まさかお姉様から裕太くんへ
チョコレートを渡されるとは知らず……」
「俺も最初は誰が?って思ったんスけど、
姉貴も昔からこういうサプライズが好きで…」
「あら…でも、中のチョコレートは私の手作りじゃないのよ。
本当はこのマフラーを一緒に入れようと思ったんだけど
せっかくなら直接渡したかったのよ。ほら、裕太に似合うかしら?」
そう言って、裕太にマフラーをかける。
末っ子の裕太のことは兄の周助同様に可愛がっているのだ。
「ったく姉貴もそれなら最初から直接ー」
「まぁいいじゃない♪これからも裕太をよろしくお願いしますね」
そして挨拶だけすると、そのまま車に乗って帰って行ってしまった。
裕太は観月たちと一緒に寮へ戻り
談話室で今日の出来事を先輩たちから詰められる。
「ったくホント人騒がせだーね」
「そ、そんなこと言われても…」
「クスクス…じゃあ結局、裕太は今年もゼロだね」
「そうですよ!どうせ誰も俺にチョコなんて…
そうだ!姉貴から貰ったチョコ食べませんか?」
話していて、チョコレートを貰っていたことを思い出した裕太。
ちょうど小腹も空いたタイミングだったのでみんな喜んで受け取り
さっそくチョコレートを口に運んだ。
姉が言っていた“それは私が作ったんじゃない”という言葉を忘れて…。
口に入れてから数秒後ー
「ぅおぉ!!何だーねこのチョコレート!!」
「ゆ…裕太くん!!何ですかこのチョコッッ……み、水を……」
「ぐはぁぁっっ!!!これチョコレートじゃないよ」
「っっお、俺だって……被害者で……す…」
そこへー
「みんなして何してるんだ?」
「うぅ……ノムタク先輩…
そ、そう言えば今日、寮に戻ってくる日でしたね…」
「っお前ラッキーだーね。
裕太の貰ったチョコレートを食べて具合が悪いだーね」
「裕太のチョコ?あぁそう言えば今日、不二周助が来て置いてったよ。
俺さ、渡そうか?って聞いたんだけど、
この方がスリルがあるでしょって言われてさぁ。
相変わらず変わった兄貴だよなぁ…」
「…っ不二周助が!!??」
「てことは…」
「ど、どうりで変なスパイスの味がすると思った……」
「……おのれぇぇ不二周助め!!!!」
「うぅ…やっぱり裕太は人騒がせだーね…」
こうして聖ルドルフ学院のバレンタインデーは悲劇に終わった。
その頃、張本人の不二周助はというと…
「裕太、食べてくれてるかな?」
「…もう、また怒られても知らないわよ」
「そう?……美味しいのになぁ」
「…………」
相変わらずの天才ぶりを発揮していましたとさ。
ーENDー
≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ルドっ子のバレンタインでしたが、裕太はモテるけど
普段ぶっきらぼうで怖がられているようなイメージですね。
逆に一番モテそうなのは木更津かな。
そして恒例の不二周助オチ(笑)私の中で観月VS不二は永遠に不滅v
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