「あーもう最悪…」

練習試合もすっかり終わり、帰る準備をしながら文句を言う朋香。
青学の応援に来ていた朋香だったが、氷帝のジャージを羽織っているため
妙な視線を浴びせられる。

「朋ちゃんその格好どうしたの?」

「聞いてよ桜乃ー!これね、さっき氷帝の芥川さんにぶつかってさ、
 その時にジュースをかけられちゃったのよ…ホント災難」

「制服は?」

「それがね取られたのよ!だから今度氷帝に乗り込んでやるんだから!」

「取られた…?」

「とにかく口は災いの元って言うけど…ホントだったんだね」

そう呟きながら先ほどの流れを振り返る。


確かに私は言った。“頭から水を浴びたい気分”って。
だけどそれは、あまりの暑さに例えで言っただけ。

なのにー

「きゃっ」

「おわっ」

まさかその後すぐに、本当に水を浴びるとは思ってもみなかった。
頭からジュースを浴びてしまうとは…。

“口は災いの元”なんて言うけど
挙句、水じゃなくてジュースときたら…ホント災いじゃない。

お互いぶつかると気づいた時には既に遅く、
慈郎の持っていたジュースを頭から浴びてしまったのだ。

ジュースがあっという間に朋香の制服へ浸透していく。

「やっちゃった…」

「ちょっとー!もう何なの!?」

「ホントごめんねぇ」

「髪もベタベタするし、制服も…もう最悪~」

「そうだ!ちょっと来て!」

そう言うと、慈郎は朋香の腕を引き男子トイレへと走る。

「ちょ…ちょっとここ男子トイレ!」

「あ、そっかそっかごめんねぇ。キミ女の子だからこっちだねぇ」

そう言って女子トイレに入るが、慈郎も中へと入って来る。

「あ、あの~ここ女子トイレなんですけど…」

「あーそっか。
 でもどっちかが我慢しないといけないから俺が我慢するね」

「はい?」

「ほら、中入って制服脱いで」

「…!?」

「早くしないとシミになっちゃうよ!」

「あ…でも」

「ほら、俺のジャージ着てればいいからさ」

そう言い、朋香を個室に入れると
上から自分の着ていたジャージを投げ込む。

「あ…えっと…」

「ほら早く~」

マイペースに催促する慈郎のペースに流され、
言われた通り朋香は制服を脱ぎ、ジャージと交換する。

ジュースをかけたお詫びなのか、丁寧に洗っている音が聞こえる。

(何か分かんないけど、とりあえずいい人で良かった)

そんなことを思いながらジャージに着替え、個室から出るとー

「ええええ!!??嘘でしょ!?」

さっきまでいた慈郎がいないのだ。
その後もずっと試合をそっちのけで探すも、
結局どこにも見当たらなかった。

朋香は先ほど一瞬でも“いい人”なんて思った自分を呪った。
そして慈郎の評価が“制服泥棒”に上書きされたのだった。




朋香は家に帰ると、まずシャワーを浴び、
ジュースによりベタベタだった髪も元に戻り安心する。

そして部屋に行き、改めて今日の出来事を考えてみた。

(何で消えたんだろ?入ってすぐは洗う音がしてたのに…
 もう私ってバカー!簡単に信用するからこんなことにー!)

苛立ちが募り、借りたジャージをベッドに投げ捨てる。

(…あれ?)

さっきまで気付かなかったけど、凄くいい香りがする。
投げ捨てたジャージを拾い上げ、もう一度その香りを確認する。

(やだ私、ジャージの匂いを嗅ぐなんて変態みたい。
 …でも何だろう…凄く落ち着くいい香りがする)




そして次の日ー。
幸い夏季休暇中なので、通学の心配は必要ないが
部活を見に行くにしても、制服がないと学校に入れないので
朋香は意を決して氷帝学園へと向かった。

(さぁて…芥川さんはどこかなぁ…)

青学より遥かに多い氷帝部員の中から探すことは困難かと思われたが、
得意の良すぎる視力のおかげで簡単に見つけることができた。

(見つけた…!)

「そこの制服泥棒ー!!」

フェンス越しに慈郎を指差し、大声で叫ぶ朋香に大笑いされる慈郎。
いつもと変わらずボーっとしていた慈郎の元に
レギュラー部員が駆け寄り笑いものにされる。

「おい慈郎、何なんだあの女は?」

「あれ青学の制服じゃねぇの?」

「慈郎いつから制服マニアになったんや」

「んん~おっかC~な。あの子どっかで…っあぁー!」

部員に問い詰められようやく朋香を思い出した慈郎。
…というよりは、部員に問い詰められ目を覚ました、という方が正しい。

ボーっとしていた慈郎だったが、朋香を見つけ慌てて走ってくる。

「ごめーん!!」

「ちょっと!この間は途中でいなくなって…制服返してくださいよ!」

「そうそう、あれねぇ、
 結局ジュースがシミになっててさ、家で洗ったんだよ」

「わざわざ家で!?」

「てっきりキミに言ったと思ってたんだけどさー、ごめんねぇ」

「すみません!そうとは知らず…制服泥棒なんて言っちゃって…」

「ぜーんぜん気にしてないからいいよー」

この間と変わらず慈郎のペースにただ流されるままの朋香。
だけど最初に会った時とは違い、そんな慈郎のペースが
段々楽しく、心地良くも思えてきたのだった。

「はい、これ制服」

「ありがとうございます!」

ようやく制服が戻ってきて、ひとまず安心する。

それにしても丁寧な人だ。
アイロンまでしてくれているようで、シワ1つない。
その上、クリーニングに出したようなビニール袋がついてあった。

シワ1つない制服、アイロン掛け、ビニール袋…
そしてジャージと同じ清潔感のある香り…

(そっか!あれはクリーニング店の香りだったんだ)

「もしかしてクリーニングに出してくれたんですか!?」

「うん、そーだよ」

「そ、そんな!申し訳ないです!
 元はと言えば私も前を見ていなかったわけで…お金払います!」

「いいのいいの。家がクリーニング屋なんだよね」

「え!?」

慌てて財布を出していた朋香の腕が止まる。
慈郎はそんな朋香を見て笑顔で言う。

「ほーら、ジュースのシミもバッチリこの通り!
 だからお金はなし!気にしないで」

「ありがとうございます!でもお礼くらい…どうしたら良いですか?」

「そんなのいいよー」

「でもー」

「そうだなぁ…じゃあ謝ってくれたらいいよ」

「謝る?」

「そう、元はと言えば君が悪いんだよ」

「はい?」

突然、責任転嫁をされて唖然とする。
しかし次の瞬間、思いもよらない言葉がー

「だって俺ね、キミを見ていて、
 かわEーなぁって思っていたら、ぶつかっちゃったんだよね」

そう言って笑顔になる慈郎を見て、不覚にもキュンとしてしまった。
そして朋香もまた、自然と思ってもみなかった言葉を発する。

「じゃあデートでお礼ってのはどうです?」

「うんうん!それEーね!デートしよー!やったー!デートだ!」

「ちょ…声が大きいですって!!声出さずに喜んでくださいよ」

「だって嬉しいCー!あ、じゃあ声に出さずに喜ぶね!」

怪訝な顔をしている朋香に慈郎は確かに声を出さずに喜びを表現した。

既に制服泥棒&デート発言で、
コート内にいた氷帝部員全員が注目する中、
頬にキスをする…という形で。

「……!!!!」

「……はずかC-けど嬉C-!!」

「…ったくもう…//」

恥ずかしさのあまり下を向く朋香。
だがこの妙なペースに惹かれていくのだった。

(やっぱり口は災いの元…ね)

再び自分の発言に後悔する朋香だったが、
その表情は出会った時と比べて幸せな表情だった。



ーENDー



≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
慈郎ちゃんかわEー!慈郎は原作ではあまり好きではなかったものの
アニメ+スマッシュヒットのボウリングモードでノリノリな慈郎が
ツボって以来、大好きなキャラクターなんです(*ノωノ)
慈郎も朋ちゃんもどちらも明るい子なので、お似合いのはずが
今まで書いてなかったんですよねー。これが初のジロ朋でビックリ☆
慈郎の父親の職業がクリーニング屋だったので、使ってみましたが、
家がクリーニング屋なのかは不明。勝手に捏造してるかもです。
珍しく気に入ってるストーリー展開&設定でした♪
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