ある休日の部活中ー
練習をしていた桃城の元へ1年トリオが走ってきた。

「桃ちゃん先輩~!桃ちゃん先輩~!」

「どうした?そんなに急いで?」

「さっきから桃ちゃん先輩の携帯ずっと鳴ってますよ!」

「しまった!俺、今日電源消し忘れてたわ…」

慌てて部室に戻るが、
案の定、部室の前では部長代理の大石が待ち構えておりー

「スミマセン!電源をー」

「これからは気をつけるんだぞ。本来なら手塚に習って
 グラウンド20周!なんて言いたいところだが、
 さっきからずっと鳴っているし、緊急の用かも知れないし、
 一度かけてみた方がいいんじゃないか?」

そんな大石の優しい気遣いを受け、
礼を言うと部室に入って携帯電話を見てみる。
着信履歴のディスプレイには「神尾アキラ」の文字。

(おいおい…アイツ一体何の用ってんだ?)

電話の相手が分かるとため息を付く桃城。
このまま電源を切ろうかとも思ったが、よく見ると不在着信15件。
さすがの桃城もただ事ではないと感じて折り返す。

「あ、もしもし俺だけどー」

「桃城!お前何回かけたと思ってるんだ!
 こっちは緊急だって言うのによぉ!」

「ちょ…お前こっちは今部活中だっつーの!
 これが手塚部長だったら今頃グラウンド50周だぜ?」

「だーかーら緊急だって言ってるだろ!
 杏ちゃんに男ができたんだよ!!」

「!?なにぃー!!」

「気になるだろ?気になるだろ?部活どころじゃねぇよな。
 じゃあ今すぐストリートテニス場に来い!」

「ちょ…まっ………アイツ切りやがった」

一方的に用件を告げられ、その場に立ち尽くす。
が、次第に神尾に言われたことがじわじわと脳内に響き渡る。

(杏に男だと!?神尾に取られたならまたしも一体誰が…)

留まるか向かうか迷っていると、
なかなか戻ってこない桃城を心配して、大石が部室に入ってきた。

「おい桃、大丈夫だったか?」

「…あ…はい!…大丈…いや…やっぱりスミマセン!
 ちょっと緊急の用が!明日今日の倍練習しますので!」

そう言い残して、桃城は猛ダッシュで
神尾が待つストリートテニス場へと向かった。




そして、ストリートテニス場へ到着すると
神尾以外にも聖ルドルフ学院の柳沢・木更津が待っていた。

「遅かっただーね」

「!?…何でアヒルっ…いや、柳沢さんに木更津さんまで…」

「あぁ偶然ここにいたから杏ちゃんのこと話してみたんだよ。
 そしたら協力してくれるって」

「俺たちも杏ちゃんの彼氏が気になるだーね」

「俺たちじゃなくて慎也がね。俺は興味本位」

「まぁ人数多い方がやっつけやすいし…桃城、お前も協力するだろ?
 するなら前に杏ちゃんと2人でテニスしたことは見逃してやるからさ」

「なっ…ったくやるよやるよ!杏のためにもなぁ」

「って呼び捨てにすんじゃねーっ!」




神尾の情報では本日11:30にストリートテニス場で
橘杏は彼氏と待ち合わせをしているとのこと。

張り込みを始めて約10分ー

「あ!誰か来ただーね!」

「杏ちゃんか?」

「クスクス…男だよ」

「杏ちゃんのか?」

「ん?…いや~違うみたいだぜ。あれは氷帝の跡部さんっスよ」

「跡部!?あのいや~なヤツだーね。一体何しに…」

「テニスじゃないの?ここテニス場だし」

まだ杏の姿が見えず、神尾が時計を目にした時ー
聞き覚えのある声が一同の耳に入る。

「ごめーん!お待たせ!」


“この声は…!!”


各々が木の陰に隠れながら覗くと橘杏が手を振りながら
ストリートテニス場の入り口に走ってやって来る。
もちろん一同のことは目に留まっていない。

“てことは…まさか”

各々が間違いであって欲しいと願いを込めたが
その“まさか”が的中することになる。

入り口で待つ跡部に駆け寄ると杏は笑顔で声をかけた。

「待たせてごめんね。お兄ちゃんにつかまってさ…
 テニスするなんて言ったらついてきそうだったし、
 言い訳してくるの大変だったよ」

「その内ちゃんと挨拶に行ってやるよ。
 今日みたいに言い訳なんかせずに会えるようにな」

「…跡部くん//」

その様子を見ていた4人衆。
杏の彼氏を見て、ショックを受けた様子で落ち込む。

「間違いねーな、間違いねーよ」

「あいつ~!俺たちの杏ちゃんを!」

「ズルイだーね」

「俺もアイツ嫌い…。観月並みに偉そうだよね。クスクス…」

「でも杏ちゃん…楽しそう…」

「神尾!今からそんな弱気でどうするんだ!元はと言えばお前がー」

「なんだと!?お前だって杏ちゃん好きじゃねーのかよ!」

「っおいおい!ここで喧嘩はやめるだーね」

ショックからの苛立ちで揉める2人を見て、
柳沢が止めに入り、機転の利く木更津からはこんな提案が…

「…じゃあ作戦変更。アイツが杏ちゃんに相応しい男かを
 みんなで調べるってのはどう?これから少し2人つけてみない?」

その提案に桃城も神尾も賛同し、
先ほどまでの“彼氏は誰だ調査”から一転、
“跡部は橘杏にふさわしい彼氏か調査”がスタートした。




一方、跡部と杏は
もちろんそんな調査が行われていることも知らず
普段と変わらぬデートを繰り広げる。

「なぁ杏、この間イタリアンが食べたいって言ってただろ?
 だから今日の昼は俺の行きつけの店を予約してきたぜ」

「ありがとう!」

そんな2人をこっそりつける4人衆。
バレないように2人ずつ分かれて、聞き耳を立てながらついていく。

「聞いたか?イタリアンだって…クスクス」

「行きつけって何だよ!中学生のくせして許せねーなぁ、許せねーよ」

「その前に店に入った後はどうするんだよ」

「神尾、お前言い出しっぺのクセに何も考えてないのか!?」

「イタリアンなんて普通行くかよ!」

跡部と杏をつけていたものの、2人が向かったお店が
オシャレなイタリアンレストランだったことに戸惑う4人。
お店に到着し、スタスタと中へ入っていく2人を見送ると
バレないようにお店から少し離れた所で再び作戦会議が行われる。

「俺あんな堅苦しそうな店入れねーよ」

「俺だってあんな店…木更津さんはどうっすか?」

「俺そもそも洋食苦手。和食派なんだよね」

「さ、さすが元六角中だーね」

「…とは言え、どうしようか。できれば中に入って盗み聞きしたいけど」

「淳…人聞き悪いだーね」

「誰かこんな店に堂々と入れるヤツいねーかなぁ…いねぇーよ」

「…あ!いるじゃん1人……クスクス」

そう言うと木更津は携帯ですぐに電話をかけた。
“来たら分かる”ということで、残るメンバーが
誰を呼んだのか気になりつつ、待つこと10分ー


「何ですか?急に呼び出したりして…緊急の用だとかで…」


“み、観月さん!!”


「…おやおや、青学の桃城くんに不動峰の神尾くんじゃないですか…
 お2人してボクにスカウトされに来たのですか?」

“ありえね~!”

「…冗談ですよ。木更津くんがボクにしかできない
 緊急の用があるとかで?」

「そう、このレストランに入ってデータを取ってきて欲しいんだけど」

「データ?…誰のですか?」

「氷帝のね、跡部なんだけど…
 今不動峰の橘さんの妹とデートしてるんだ。
 で、その様子を見て欲しいんだけど…」

「…っ!?何でボクが!
 だいたい他人のプライベートを覗くなんて性質が悪すぎますよ」

「いつも観月がしてることだーね」

「観月さんお願いしますよ!
 杏ちゃんに相応しい男が調べてきてくださいよ!」

「俺からもお願いします!
 そのために部活まで休んで来たんですよ!」

各々が観月にすがるようにお願いをする。
最初は断っていたが、頼られることは嫌いじゃない観月なので
しばらく考えた後、自分でも意外だったが了承をするのだった。

「そんな事情は知りません…ですが跡部くんには
 個人的に痛い思いをさせられましたので、
 今後のためにもデータ収集は協力しましょう!」

「さすが観月さん!ありがとうございます!」

「ただし!あくまでデータ収集ですよ?
 ボクは他人の恋を横暴しようなんてつもりは一切ありませんから!」

「分かっただーね」

「まぁ跡部の弱みくらい分かればいいや。じゃあ観月よろしく!」

「んふっ任せて下さい♪人の弱み掴むのは得意ですから」

「…観月の方が性質悪いだーね」

「何か言いましたか?」

「ひぃっ…な、何も。行ってらっしゃいだーね」

こうして観月のデータ収集が始まった。

レストランへ入ると観月はお店のスタッフに何かを告げて
跡部たちの席の後ろの席を指定し、案内をしてもらう。

イタリアンドルチェと紅茶を頼み、後ろの会話に耳を澄ませみる。
その手にはしっかりとメモが用意されてあった。

一方、跡部と杏は観月にも気付かず
メイン料理へ差し掛かっているところだった。

「跡部くん、これすっごく美味しい!」

「だろ?俺はここ以外のイタリアンは食べないくらい好きな店だ」

(跡部くんの自慢話はともかくとして、彼女が注文した
 スモークサーモンの冷製カッペリーニは素晴らしいチョイスですね。
 ボクもランチメニューの中ならこちらを選びます)

「跡部くんのも美味しそうだね」

「一口食べてみるか?」

「ありがとう!……ん~こっちも美味しい!」

(跡部くんはボンゴレビアンコですね。
 ま、こちらは定番メニューといったところでしょう。
 そもそも中学生がこんな所でデートなんて…。
 杏さんにはもっとカジュアルなお店ののんびりと楽しめるお店が
 似合っていると思いますが…彼は自己中心的な人なんでしょうね)

2人の食べているメニュー分析をしながら
そんなことを考えていると…

「あれ?ルドルフの観月さんですよね?」

「…!?」

「珍しいですね。お1人ですか?」

跡部の後ろに隠れてはいたものの
視線を感じたのか、杏に気付かれてしまった。

バレてしまった以上、
後はつけていたことをバレないようにするしかないと
観月は口から出まかせを言い、事を進める。

「…おやおや、不動峰の橘杏さんと氷帝の跡部くんじゃないですか。
 どうしたんです?お2人で…」

「あぁ?見て分かるだろ。デートだ」

「…そ、そうですか」

「それよりお前こそ1人で何やってんだ?アーン?」

「もちろん見ての通り、スイーツをいただきにね。
 適度に甘いものを摂取することは脳が活性化されて
 諸業務がはかどりますし、オススメですよ」

「ハァ?1人でこんな店に…そもそもお前には場違いじゃねぇの?」

跡部の高慢な態度に観月の怒りのボルテージがMAXになる。
次の瞬間、思わず本当のことを口走ってしまったのだった。

「っ失礼な!ボクがなんでここにいるか教えてあげますよ!
 ボクは、あなたが杏さんに相応しい男か調査しに来たんです!」

「何!?」

「えっ?」

「…んふっ…この際はっきり言いましょう。
 貴方は杏さんに相応しくありません。まず、その高慢な態度、
 そして物言い。杏さんが望んでいるか聞きもせず、昼間から
 こんな所に連れてきて…見ればわかります。
 どうせ貴方がが無理矢理連れて来たんでしょう。
 杏さんと生活環境が違うのに自分流を貫いて…可哀想に」

「あぁ?お前、何勝手なことを…。
 ったくテニスで負けたからって人のプライベートを…」

「!?失礼な!ボクはそんな卑怯な真似はしませんよ!
 ボクはただ今見たままを言っているわけで…。
 杏さんも今のうちです。…何ならボクと付き合ってみますか?
 ボクならこんな肩身の狭い思いはさせませんよ?」

「あぁ!?杏はお前なんかに渡さねーよ」

「お前なんかとは何ですか!
 お金遣いが荒いだけでなく言葉遣いも荒いですね」

「お前いい加減にー」

互いのプライドを刺激したため、場所を忘れて言い合いをする2人。
そんな2人を見て、慌てて杏が止めに入る。

「ちょっと待って!ちょっと待ってよ2人とも!
 他のお客さんやお店に迷惑になっちゃうよ!」

「…悪い」

「ごめんなさい。
 見ていられなかったのでつい熱くなってしまいましたね」

2人が冷静になったところで、杏は観月に向かって話を続ける。

「それであの…観月さん、確かに跡部くんのことは最初はね
 高慢で偉そうで…絶対好きにならないって思ってた。
 だけど…実際話をしてみると私の気持ちもちゃんと考えてくれて
 根はいい人なの。だから…私の意志を変えることはできない。
 それに私、こういう部分を含めて跡部くんが好き…」

「杏…。…おい観月、聞いただろ?」

「ええ、分かりました。
 ひとまずボクはもう帰ります。では…」

結局、跡部に言い負かされた…というよりは
杏の想いに負けたといった形で、観月は諦めたようにその場を去った。




そして、4人衆の元へ戻ると
一斉に中でのことを問い詰めるように話し出す。

「観月さん!どうでした?意外と早かったっすね」

「跡部のヤツ、どうだっただーね?」

「早く教えてくださいよ!」

「おい観月!」

詰め寄る4人の質問には一切反応がなく、
怪しい笑みを浮かべるとブツブツと呟き、来た道を歩いて行く。

「…跡部景吾…絶対負けません」

「何言ってるの観月?」

「ボクはちょっと大事な用を思い出しまして…ごめんなさい」

「ちょ観月!何があっただーね?」

「…なんだったんだ?」

「さぁ?…って杏ちゃんたちは!?」

「えっ!?」

気付いた時には遅く、
2人は跡部が呼び出した自家用車に乗ると帰って行ってしまった。

残された神尾たちは…

「…今日1日なんだったんだろうな…」

「ちょっと帰って観月に詳しく聞いてみるだーね」

「そうだね。あの様子じゃ絶対何かあったみたいだし…」

「じゃあ“杏を助け隊”一時解散ってことで…」

「だーかーらー呼び捨てにすんじゃねー!!」




その夜、ルドルフ寮ではー

「裕太、観月知らない?」

「観月さんですか?…それが…」

「どうしただーね?」

「部屋に入ったきり出てこなくって…。
 今ノムタク先輩が覗きに行ったみたいですが…」

「大変!大変!弟くん大変だよ~!
 …ってイテテテ……ごめん!ごめん!」

「で、観月さんは?」

「それが…」

野村がみんなを手招きをして、観月の部屋をこっそり覗かせる。
部屋では、いつものようにパソコンに向かって
何やら情報を打ち込んでいる観月がいた。

かなり集中しているようで、
覗かれていることに気が付いていない様子だ。

「んふふっ…跡部景吾、覚悟しなさい。
 彼女は必ずボクが…んふふふふ…」

「観月?」

柳沢がそっと近づき、パソコンの画面を覗くとそこにはー

『橘杏…不動峰中学校2年、誕生日6月28日(蟹座)、血液型O型…
 家族構成…兄は不動峰中テニス部部長の橘桔平…』

(…他人の恋の横暴だーね)

そして部屋に戻った柳沢は神尾たちにメールで知らせたとか。

『観月も杏ちゃんを狙っている』

この件についても近々作戦会議が行われるらしい…。



ーENDー



≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
無駄に長くてごめんなさい。いつか総受けってジャンル?に挑戦したく
随分前に書いていた跡杏前提の杏ちゃん総受けでした。
たくさんのキャラを登場させるのは難しいですね。
途中で誰が言ってるのか分からないような台詞もあったりして、
語尾で分かるように入れたり、普通のSS書くより難しくて疲れました。
自己中な跡部様ですが、それもチャームポイント☆
そんな風に思って付き合えている杏ちゃん偉いー(*´ω`*)笑
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