この日は朝から雨のため、室内でネジとヒナタは修行をしていた。
そこへ、ヒナタの父ヒアシがやって来ると、ヒナタに稽古をつける。
「っ…はっ!」
「まだまだ甘い!もっと強く!」
「ハイ!」
その様子をネジが少し離れた所から見ている。
そして2人に、ばれないように深いため息をつく。
この2人の光景は幼い頃の記憶を呼び起こすー
懐かしくもあり、悲しくもある切ない思い出…。
オレも小さい頃、今のヒナタ様とヒアシ様と同じように
父上と修行をした。任務がない時は喜んで相手をしてくれたし、
何より父上はいつもオレの成長を心から喜んでくれて、
「お前は一族の誰よりも日向の才に愛されている」と褒めてくれた。
2人の修業をみていると父上との思い出が蘇る。
今の姿をどれだけ父上に見てもらいたかったか。
(父上…)
目を閉じ父親の顔を思い出すと過去の記憶が蘇る。
ザザーッ…
窓越しに見える激しい雨は今のオレの心によく似ていた。
今日は、父上の命日だ。
この人たちはそれを覚えているのだろうか。
オレは確かにあの日、中忍試験の後、
父上の死について真実を知り、ヒアシ様と和解をした。
そのことで、憎しみで溢れていた心が軽くなったのは事実。
しかし、父上の望みだったとしても、
結果的に父はヒアシ様の身代わりとなって死んでいったのだ。
もう憎んだり、恨んだりはしない。そう決意したが、
やはり時々懐かし記憶を思い出すと、そういう気分になってしまう。
ー居場所がない。
まさにそういう状況だった。今の感情のまま此処へいても
結局オレはこの人たちを完璧に許すことができないのだから…。
「ネジ、どこへ行く?」
「……午後から任務が入っているので」
「そうか」
そう言って家を飛び出してきた。もちろん任務なんて入っていない。
ただ、今あそこにいると父上の二の舞になってしまいそうだから。
ヒナタ様が悪いわけではないけど、恨んでしまうこの気持ち。
ーが、この雨の中どうするべきか。
雨を気にせず歩いていたが、あまりに激しい雨なので、
とりあえず近くの店の屋根を借りて雨宿りをする。
そこへー
「あれ…ネジさん…?」
雨宿りをしていると突然後ろから声がかかり、振り返ると
店の手伝いの最中かエプロン姿のいのが立っていた。
「お前は…確か、山中いの…」
「確か、はないんじゃない?
っていうか、こんな雨の中で何してるんですか?」
「見たら分かるだろ、雨宿りだ」
相変わらずのネジの反応に、いのは少し睨むが、
普段のネジとは違う雰囲気を察して腕を引っ張る。
「…!!」
「雨宿りだかなんだか知らないけど、
このままだと風邪引くのが目に見えてるので入ってください。
ほら、髪もこんなに濡れて…どこで何してたんですか…」
そう言って半ば強引にネジの腕を引き、中に入れる。
自分でもよく分からなかった。だけど、雨の中佇む彼を見ていると、
切なくも、悲しくもなり、放っておけなかった。
「ここお前の家だったのか…?」
「ううん、ここはお店。家は店の奥。
知ってんでしょー“やまなか花”って花屋さん!
木ノ葉で有名なのよー?かわいい看板娘がいるってねー」
「自分で言うか、そういうこと」
「もう、冗談よ!ほら中入って、奥から家へ繋がってるから」
「……すまない」
「何があったか知らないけど、困ったときはお互い様ってねー」
ネジはいのの優しさに触れ、胸が温かくなったのが自分でも分かった。
外は豪雨だったのに対照的な明るさを持つ彼女。
自分とはあまりに違いすぎて、自然と引き込まれていく。
「温かいお茶淹れたから、良かったらどうぞ」
「すまない…」
「っふふ」
「どうした?」
「だってさっきからネジさん、謝ってばっかりですよー」
「…そうか」
「ってごめんなさい、私さっきから喋りまくってて」
「いや、もっと話してくれ」
どこか切ない表情で話すネジを見て、
先ほど店の前で雨に打たれて立っていたネジを思い出す。
何かあったんだろうけど聞けない。
かと言って、静かにさせてはいけないのかもと思い話を続ける。
「良かったらこのタオルも使って下さいね!」
「…何故ここまでしてくれるんだ?」
「言ったでしょー。困った時はお互い様。それにきっとネジさんは
忘れたと思うけど、中忍試験で私ネジさんに助けられてるしねー」
「…そう、だったか」
「ネジさんからすれば助けたって訳じゃないけど…。だから恩返しかな」
「…ありがとう」
ネジはいのと話す内に心が晴れていった。
話すことは他愛もない話なのに、ネジにはそれが嬉しくて、
敢えて何も聞いてこないこともありがたかった。
まさに彼女は“花のような人”だ。
心がキレイで、笑うと花が咲いたようにパッと明るくなる。
オレが求めていたのは彼女だったのかもしれない。
「いのー!ちょっと水遣り頼めるー?」
「分かったー!ごめんなさい、ちょっと店に戻ってきます。
ったく、ネジさんが来てるのに何で私がー」
文句を言いながら店へと戻るいの。
ネジは暫くその場で座っていたが、いのを追って店へと出る。
「~♪」
店を覗くと、鼻歌を歌いながら、
1つ1つ丁寧に水をあげていく、いのがいた。
「…花が好きなんだな」
「ネジさん…。一応花屋の娘だからねー。それに小さい頃から
ずっとこうして花に囲まれてきたから自然と好きになったの」
「キレイだな」
「…でしょー!この花はオススメよー。
花はね、そうやって褒めてあげるとキレイに咲くものなの」
「……」
1本1本、花に声をかけながら水をあげる姿を見て口元が緩む。
彼女といるとまるで自分の心が洗われたかのように心が軽くなる。
今朝、思い出した憎しみや恨み、汚い心が
花のような彼女によって拭われたように心が穏やかになった。
“オレが求めていたのは彼女だったのかもしれない”
…違う。
かもしれないではなく、そうだったんだ。
「ありがとう」
「え、何よ、改まって…そんな…」
「お前を見てると普段言えなかったような言葉が迷わず言える気がする」
「え?」
「さっきキレイと言ったこと、覚えているか?」
「ん?ああ、さっきね。この花でしょ」
「花は確かにキレイだ。
だけどさっきオレが言ったのは…花を見ているお前のことだ」
「…?……え……わ、私!?」
「そうだ」
「そ、そんな真面目な顔してー///私の色香に今頃気づいたのー?」
「ああ」
「…!!」
冗談だと思い、ふざけて返した言葉に真面目に反応するネジ。
目を見開き驚くいのだが、目の前にいるネジの真剣な表情を見て
それが冗談じゃないとわかると同時に恥ずかしさで真っ赤になる。
「もっと話を聞かせてくれ。良ければ…だが」
「……!!もちろん!私でよければ…」
「ああ、お前がいい」
ぶっきらぼうな物言いだが、ストレートな言葉がいのの心に響く。
いの自身も次第にそんなネジに惹かれていくのだった。
「なんか嬉しいなー。さっきね、ネジさんが指差した赤いチューリップ。
赤いチューリップの花言葉は恋の告白なのよねー。
なんだか告白されたみたいで嬉しい♪」
「いや、それは偶然で…」
「ふふっわかってる。だけどねー、今日会ったのだって偶然なんだし、
偶然でもネジさんとこうして出会えて良かったって思った。
良ければ部屋で話しません?もっとネジさんのこと、知りたいし…」
「そうだな。オレももっと知っていった上で、
改めてさっきの花を…ちゃんと言葉にして渡したいと思っている」
「ありがとうございます///」
恥ずかしそうに笑ういのの表情を見て、ネジの表情も和らいだ。
ネジが赤いチューリップを渡すのはもう少し先の話。
ーENDー
≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
初めて書いたネジいの。中忍試験でネジさんかっこいい~みたいな
演技をしているいのを見てイケる!と思ったのがきっかけでしたが
当時、意外と同士さんがいて感激していたのを覚えています。
管理人は好きなキャラ同士を融合したくなる性質がありまして…。
今読み返すとなんか無理やり感とやたらネジが偉そうですが。
暗い人を明るくするいのちゃん(笑)原作のサイいののような
イメージで書き上げていたんだなぁーと今になってはそう思います。
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