寝苦しくなるこの季節。
暑さのせいでロクに眠れず目を覚ますと、
いつもは自分よりも遅く起きるアンコの姿がない。
眠い目を擦り、窓の方に目をやると
涼しげな表情で外を眺めているアンコがいた。
「今日は早いね」
「任務が朝早くってねー。
それより昨日言ったこと覚えてるでしょうね?」
「昨日?…あぁ、花火大会のこと?」
「そう!だから今日は、さっさと任務を終わらせて
一緒にお祭りに行くわよー!」
「それで朝から元気なんだ」
「ほーら!アンタも早く起きて!」
まったく解りやすいヤツだな、と
テンションが高いアンコを横目に微笑む。
思い返せば、昨年もそうだった。
花火が好きで、楽しみにしているのかと思ったら
祭りの屋台が楽しみで色気よりも食い気か、と突っ込んだ記憶がある。
(一応浴衣のリクエストはしておいたけど、
アンコのことだ、どうせ浴衣のことはすっかり忘れているだろなぁ)
夜になり、テンゾウが祭り会場へ着くと、
もう少しで花火が始まる時間ということもあり、
周りはカップルだらけだった。
そんな中、まだ来ない彼女を待つテンゾウ。
「……遅い」
あんなに張り切っていたアンコが、
待ち合わせの時間になっても現れない。
(任務が長引いてるのかな?)
待ち合わせの時間を過ぎても来ないので、
テンゾウはやれやれと、近くにあったベンチに腰掛ける。
アンコに言われて来たものの、
祭り会場は懐かしい匂いが漂っていて、
待っている時間も苦にならなかった。
色とりどりに賑わう屋台とそこに群がる人々を見て微笑む。
母親にりんご飴をねだる女の子。
射的に夢中になる少年。
屋台を物色するカップル。
浴衣を着て一人で歩く……美女。
(おお~…キレイな人だなぁ……)
アンコがいないのを良いことに、
テンゾウは少しの間その美女に見惚れていた。
髪をサイドで束ねて、後れ毛がまた色っぽさを増している。
我に返り、周りをみると、見惚れていたのはテンゾウだけではなく、
周りの男共が続々と振り返り同じように見ている。
(きっと彼氏と待ち合わせなんだろうな)
その女性が辺りをキョロキョロをしているのを見て、勘付いた。
しかし次の瞬間、その女性が振り返ると共にテンゾウは絶句する。
「あ、お待たせ!こんな所にいたのね」
「…!!!」
浴衣美人とはこういう事なのか?あまりの衝撃に目を見開く。
テンゾウが見惚れていた美女ー
それが待ち合わせをしていたアンコだったのだ。
座っていたベンチから慌てて立ち上がり確認をする。
「アンコ…か?」
「なに寝ぼけたこと言ってるの?それより遅れてごめん!」
「あ…あぁ…」
「なぁに?私に見惚れてる?」
「…い、いや後ろにいた美女に…」
「私を前にいい度胸ね?」
「…お前こそボクを待たせるとはいい度胸だ」
ようやく焦りが引けて、いつものテンゾウに戻る。
いつもは色気より食い気で、
昨年の祭りでも花火より屋台の食べ物に目がいってた彼女が、
浴衣を着て、化粧をして、いつもは適当に上げている髪を
キレイに束ねているものだから、
いくら冷静なテンゾウでも驚いてしまう。
「せっかく面倒な浴衣まで着たのに、何その反応。
浴衣来てこればってそっちが言ったのに」
「…あ、ああ似合ってるよ、ホントに」
いつもと全然違うアンコの姿に戸惑いつつも、
自分のために着てくれたことに嬉しくなる。
それに、振り返る男共の羨ましそうな顔。男冥利に尽きるってモンだ。
「…ちょっとテンゾウ」
「ん?」
「さっきから視線感じるんだけどさぁ…
やっぱりこの浴衣変?変よね、やっぱり…」
こんな風に自分がどう見られているか無頓着な所もおもしろい。
「似合ってるから大丈夫。それより花火始まるよ」
空を見上げると、ちょうど一斉に花火が弾けだした。
「結構迫力あるなぁ」
「キレイねー」
「あ…」
「どうしたの?」
「あそこにいるのって…シズネさんとゲンマさん?」
テンゾウが指差す方を見ると、
仲良く寄り添って花火を見ている2人がいた。
「ね、こっそり見に行かない?」
「趣味悪いぞ」
「いいじゃない♪」
アンコが2人に見つからないように、こっそりと近づく。
テンゾウは止めようとしたが、
そんなアンコを放っておけず結局ついていく。
ーが、花火の下でキスを交わす2人を見てしまい、思わず目をそらす2人。
「あ…」
「あ…///…」
「バカだな、お前」
「…っただ茶化そうと思っただけなのに…///」
「アンコ」
「何?」
名前を呼ばれ振り返った瞬間、ゲンマらと同じようにキスをした。
「…っ………ど、どうしたのっ」
「こういう雰囲気なのかなぁって」
突然のキスに目を丸くしていたアンコだが、次第に笑顔が戻る。
そして2人はしばらく花火を楽しんだ後、
恒例の屋台めぐりをして家へと帰っていった。
「楽しかったわね~」
「花火近くで見れたし」
「いっぱい食べれたし♪」
「やっぱり食い気か?」
「コレには敵わないでしょ~」
お土産に買った団子を食べながら満足そうに外を眺める。
窓際に腰掛けて祭りの余韻に浸る2人。
空にはキレイな星空が広がり2人を包み込む。
「…ちゃんと言ってなかったけど、浴衣すごく似合ってるよ」
「ありがと。でも妬けるわねぇ…」
「何?」
「アンタが見惚れてたって言った女よ。どんな女か見ればよかった!」
待ち合わせの時に言われたテンゾウの言葉を持ち出し、
不満げな顔をするアンコ。
テンゾウは笑みを浮かべてアンコに近づき、耳元で囁く。
“あれはお前のことだ”とー。
「…!!うそ…だってそんなこと全然ー」
「言うわけないでしょ。お前に見惚れてた、なんて」
「テンゾウ…」
「来年もまた…一緒に行こうな」
「もちろん!」
ーENDー
≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
2作目のテンアン。開き直って超マイナーCPなのに推しています。
この作品は初めてクロスオーバーを意識して
ゲンシズの「夏の片隅で」と一部繋げてみました。
アンコさんは男勝りだけど、大人の色気があると思っています。
テンゾウはそんなアンコに引っ張られがちではあるけど
きちんと主張するところはして対等な関係だといいなーと妄想。
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