「ん~疲れた~」
任務を終え、上忍待機所に戻ってきたシズネは
疲れた様子で伸びをすると椅子に腰掛けた。
そこへー
コップに入れたお茶を持ってやってきたのは不知火ゲンマ。
同じく少し前に任務から戻ってきたようで、自分が飲むついでに
シズネにもお茶を入れて持ってきてくれたようだ。
「お疲れさん」
「ありがとう。ゲンマはこれから任務?」
「いや。オレもさっき上がったとこ」
「なんだてっきり任務の資料を読んでいるのかと思ったわ。
……ねぇ、さっきからそれ…何してるの?」
ゲンマの手元にあったファイルを指差し尋ねる。
シズネと話しながら、ゲンマはしきりにファイルのようなものに
紙を入れたり出したりしているのを見て気になったのだろう。
「あぁこれはオレが今まで行った場所を写した絵葉書だ。
今は頻繁には行けないが、旅するのが好きで、
任務が終わって早く帰ってきた時はこうして城を見に行って
帰りに絵葉書を買う。それを集めたのがこれってわけ」
「…あ、このお城知ってる!田の国の奥にあるー」
「お前、城に詳しいのか?」
「私もお城とか文化遺産を見たりするのが好きで、綱手様と一緒に
旅をしていた時にも色々見てきたから記憶に残ってるのよね」
「そっか。お前とは趣味でも気が合うんだな」
ゲンマに気が合うと言われ、シズネの頬が赤く染まる。
シズネがゲンマを好きだと認識したのは最近ではなかった。
木ノ葉に帰ってきて、同じ班になったり一緒にいることが多く
自然と惹かれていったのだ。
だけど、肝心のゲンマは一体どう思ってるのか…。
元々ゲンマは人見知りとかそういったものに無縁のタイプで、
誰であっても平等に接して、そういうところにも憧れていた。
それが段々好きに変わり、憧れていた平等な態度が今では少し厄介に。
ゲンマが横にいるのも関わらず軽くため息をついてしまう。
「おいシズネ?」
「…え!?ん、何?」
「これ、アンコから差し入れ」
考えごとをしている間に、任務を終えたアンコが帰ってきていた。
そしてその手にはアンコ大好物、甘栗甘の団子が。
「ありがとう」
「ほらほら、みんなの分もあるわよー!
やっぱり任務の後は団子に限る!ん~おいし♪」
「ったく相変わらずだな、お前は。んな一気に食うと喉詰まるぞ」
「だいじょー……っゴホッ!ゴホッ!!」
「ったく言った途端に…。ほら、お茶飲めって」
そう言いゲンマは先ほどまで自分が飲んでいたお茶をアンコに渡し
お茶を飲ませると背中をさする。
ほらね、ゲンマはこんな人。
もちろん急を要することだったからでもあるけれど、
ゲンマは自然にこういう優しさが誰にでもできる人。
普段は愛想があるタイプではなく、ぶっきらぼうな物言いだけど
仲間思いで、みんなに優しい。
好きになってからは、その優しさが自分だけに向けばいいのに…なんて
今まで自分にはないと思っていた独占欲がむき出しになり自己嫌悪。
恋人でも何でもないのに嫉妬しちゃって……情けない。
綱手の部屋に戻り、仕事でもして忘れようとするけれど
そんな都合よく要らない記憶だけ消えるということはなかった。
深いため息をつき、書類仕事に手を動かす。
「どうしたシズネ?お前らしくない。ため息なんかついて」
「……いえ、何でも」
そう言い首を横にふるシズネに綱手は「そうだ!」と
突如引き出しを開け、中から紙袋を取り出しシズネに渡す。
「これは…なんでしょう?」
「いやな、お前に良い話があるんだよ。
私が昔、世話になった人の息子なんだが見合い相手を探していてな」
「見合い…相手?」
「そうだ。で、お前にどうかと思って…。イイ男らしいぞ?」
シズネは焦った。過去に綱手にイイ男と紹介されて良かった試しがない。
その上、好きな人がいるシズネにとっては、
お見合いをするくらいならゲンマに告白をするといったところだ。
「お前付き合っているやつとかいるのか?」
「それは…いませんけどー」
「だったら折角の縁談だ。火影の私の顔を立てると思って
会うだけでも会ってやってくれないか?」
個人的でプライベートな依頼ではあるが
シズネの性格上、“火影の”なんて言われると断ることができない。
返答に迷うシズネだが、
そこへタイミング悪く不知火ゲンマが部屋に入ってきた。
「すみません、報告書を持ってきましたがお話し中とは…」
「気にするな。そこに次の任務があるだろ、
明日は朝からの任務で悪いが頼んだよ」
「承知しました。
……って五代目、これ任務の依頼書じゃないですが…」
綱手が受け取り見てみると、
先ほど話していたシズネのお見合い相手の紹介文と写真だった。
書類を取り間違えた綱手は慌てて本物の任務依頼書をゲンマに渡す。
「あぁ悪い悪い。いやな、実はシズネに見合いの話をー」
「ちょっと綱手様っ!」
ゲンマに見合いのことを話す綱手に思わずシズネが声を上げる。
「いいじゃないか。ほら中々のイイ男だろ?」
「綱手様っ!私はまだお見合いをするとはー」
「……いいじゃないか」
「え…」
ゲンマにそう言われ、シズネは言葉を失う。
肯定しただけではなく、シズネに見合いを勧める始末だった。
「ほーら、じゃあ決まりだ!よろしく頼むよ」
「……はい」
もう何だかどうでも良い気分になり、つい返事をしてしまった。
職務が終わり、家に帰っても先ほどのゲンマの言葉が頭を回る。
いいじゃないかって…。
同じ班員として任務をし、仲間に慕われる姿を見て、
忍としても、人としても尊敬をしていた。
綱手との旅でブランクのあった私も快く班に招き入れてくれて、
他の班員から息ピッタリだと言われ舞い上がったこともあった。
そして、同じ趣味があることも知り、ますます好きになった。
だけどゲンマは…
もう諦めよう。
きっとお見合いをしたら忘れられる。
綱手様のいい人は当てにならなくても、ゲンマもいい人そうだと
言っていたし、いい人だったらちゃんと付き合おう。
そしてお見合いの当日ー。
沈む気持ちを抑えつつ、半ば投げやりに来たお見合いだったが、
扉を開けた後、予想外の出来事にただただ唖然とするばかりだった。
部屋には写真の人物ではなく、ゲンマがいたからだ。
「…な、なんでここにゲンマが!?」
「悪ぃ。この前は火影様の前だったから、あんなこと言っちまったけど
オレ…お前に見合いされたくねぇみたいだわ」
「え…ちょっ……どういうー」
「オレは前からお前が好きだった。だけど木ノ葉がまだ傾いている時に
浮かれてるのは良くないと思って、ある程度木ノ葉が元に戻るまでは
気持ちを打ち明けないつもりだった。だけどお前が見合いするって
聞いたら止めに来ずにはいられなかった。…悪ぃ」
「………」
「お前はどう思ってるか知らないが、正直に返事を聞かせて欲しい」
ゲンマに予想もしていなかった想いを告げられ、
驚きで目を見開き唖然としていたシズネだが、
ようやく落ち着きを取り戻し口を開く。
「………同じ。私も…ゲンマと同じ気持ちだから」
本当はずっと前から好きだった!とか好きで好きでたまらない!とか、
この間はショックだったとか…好きな気持ちや文句やら、
言いたいことは山ほどあった。
だけど真剣な眼差しでこっちを見ているゲンマを目の前にすると、
とにかく好きでいてくれたことの嬉しさだけが言葉になる。
これってもう恋じゃなくて愛なんだなぁって。
それくらい好きな気持ちが素直に言える。
「シズネ……」
「……私を好きになってくれてありがとう」
ーENDー
≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ゲンマのキャラってこんなんだっけ?と久々に読み返して
違和感があるゲンシズでした(^^;
安定の大人CP。里のことを考えて告白しないなんて
ゲンマどんだけ…とか思われそうですが(笑)
ゲンマの前だとちょっと幼くなるシズネちゃんが大好きです。
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