12月25日ー
跡部くんの家でクリスマスパーティー。
18時に家の前で待ち合わせ。

杏は手帳に書いた文字を確認した。

今日はクリスマスパーティー。
跡部家では毎年恒例の行事だって言うけれど
私の家ではもちろんそんな習慣はない。

お兄ちゃんに頼んでもらい、
友達のお姉さんからパーティードレスを貸してもらって、
貯めたお小遣いでドレスに合う靴まで買った。

だけど、行ってみると人、人、人。
しかもみんな豪華でキレイなドレスを着てお化粧をして…
何だか自分だけが置いていかれた気分に。

跡部くんはそんな私に気を遣ってか、
何度も声を掛けにきてくれるけど、なんてたってかの有名な跡部家。
跡部くんは来た人から途切れることなく声を掛けられていて、
せっかくのクリスマスパーティーなのに一緒にいられない…。

会場の真ん中に取り残された杏は周りを見て溜息をつく。
誰か知っている人はいないか探すが、
この人の多さで見つけることは不可能だった。

少し会場を歩いてみるが、
慣れないヒールで歩き辛く、人とぶつかってしまう。
謝罪をしたものの、聞いたことのない外国語で返される始末。

杏は会場の壁にもたれかかり、溜息をつく。


(足痛いなぁ……)


慣れないヒールで靴擦れを起こしてしまっていた。
痛さと切なさが混じって、泣きたい気持ちになる。


「ハァ……最悪のクリスマス」


思わず溜息と重なり、言葉が漏れた。


(こんなことなら、いつものようにお兄ちゃんと過ごせば良かった…。
 跡部くんには悪いけど…もう帰ろう)


杏は靴擦れをした足を庇いながら、ゆっくりと会場から出て行き、
ドレスが擦れないように少し持ち上げ、身長に階段を下りて行く。


(あ……)


途中、片方の靴が脱げて階段に取り残されてしまったが、
杏は振り返りもせず、構わず裸足で階段を下りる。


(靴なんてどうでもいい。それよりも今は早く帰りたい…)


無事に階段を下り、正門へ向かった時ー


「シンデレラにしては、まだ帰るのが早いんじゃねぇか?」

「…跡部くん!?」

聞き覚えのある声がかかり、思わず立ち止まる。
階段を見ると、杏が脱ぎ捨てた靴を片手に持つ跡部の姿が。

跡部は、そのまま杏の元へ駆け寄ると、
有無を言わさぬスピードで杏を抱きかかえる。

そして来客が注目する中、再び階段を駆け上がり家に戻ると、
あっと言う間に部屋の一室へ連れて行くのだった。



「…ここは…?」

「俺の部屋だ。普段、他人はいれねぇが、杏は特別だからな」

そう言って、杏をベッドの上に座らせる。
先程、黙って帰ろうとしていた手前、バツが悪そうに下を向く杏。

「あの…ごめんね、勝手に帰ろうとして…」

「いや、悪いのは俺だ。父親の仕事絡みの連中が息子に媚でも売ろうかと
 声かけてきやがって…。俺は杏とクリスマスを過ごすために
 招待したつもりが、逆に不愉快な思いをさせちまったな…」

いつもとは違い、素直に謝る跡部の姿勢を見て、
さっきまで沈んでいた杏も笑顔になった。

「それより足、見せてみろ、怪我したんだろ?」

「…ああ、うん。でもただの靴擦れだし大丈夫だよ。
 慣れない靴を履いたらすぐこれだもん」

「いいから足」

跡部はバンドエイドを取り出すと、
靴擦れから血が滲んでいる足首に貼り、
履いてきた靴を脱がせると、代わりにスリッパを履かせた。

「…え…靴は?」

「ここは俺の部屋だ。気にせず自由に歩ける方が楽だろ。
 今シェフに料理を運ばせるから、もう少ししたらここで食べるぞ」

「でも…他のお客様もいるのに、いいの…?」

「当たり前だ。親父の付き合いで開いているパーティーだ。
 俺はそんな連中とつるむよりは、杏と一緒にいたいからな」

そう言うと、ジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを緩める。
靴を脱ぎ跡部もスリッパに履き替えた。

そして暫くすると料理が運ばれ、2人でクリスマス料理を堪能する。
食事が終わったタイミングで、跡部は杏に小さな箱を渡した。

「…これは?」

「俺からのクリスマスプレゼントだ。
 …ただし、言っておくが俺の好みじゃねぇからな!」

少し恥ずかしそうにプレゼントを渡す跡部。
中を開けてみると、杏が前にカワイイと言ったキャラクターの
ストラップとハンカチが入っていた。

「…ありがとう…」

「俺ならもっと指輪とかネックレスとかを選ぶが…
 あ、気に入らねぇなら今からでも違うものをー」

「違う!嬉しいの…すっごく嬉しい!
 私がカワイイって言ったことを覚えててくれていたのも嬉しいし、
 何よりこれを買いに行ってくれた跡部くんを想像すると嬉しくて」

そう言って嬉しそうに喜ぶ杏を見て、跡部は側に行き抱き寄せる。

「跡部くん…//」

「…じゃあ…クリスマスの感想は?」

「え…?」

突然、質問をされて
一瞬何のことを指しているのか分からなかった杏だが、
すぐに思い出した。


“ハァ……最悪のクリスマス”


帰ろうとした前に言ってしまった言葉。


「違う!今日は…最高のクリスマス!」



ーENDー



≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
こちらもかなり昔に書いたクリスマス記念の跡杏でした★
跡部家ならきっと盛大なパーティーが開かれるに違いないと思い
書いたものですが、パーティー抜け出して部屋で遊ぶべー様。
脳内ではもっと激しい跡杏でしたが(笑)中学生らしさも残したお話に。
リッチなクリスマスパーティーに行ってみたいものです( *´艸`)
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