あの日、ヴァイオリン教室の手伝いが終わった後ー
興味本位で、本物のヴァイオリンを弾いた姿を
月森くんに見られてしまってから私は闇に堕ちてしまっていた。
子どもたちにニセモノの感動を与えてしまったこと。
周りに嘘をついて、これまでコンクールに出ていたこと。
最初からこうなることは予想ができたのに
いつの間にか本当に弾けると思い込んでいたのか、
そんな自分が汚らわしく感じて、どこかに消えたい気分だった。
誰でも良いから助けて欲しくて、
解ってもらいたくて…ずっと苦しかった。
自分を偽るのは想像以上に大変なことで、心が潰れそうだった。
不安で不安で、どうしようもない思いに駆られた時
求めていたのは、柚木先輩だったー。
ヴァイオリンから離れて、しばらく経った頃ー
もしかしたら会えるかも…なんて思って
屋上に来てみたものの柚木の姿はなかった。
(そんな都合よくいるはずないよね…)
自分でも何故だか分からない。
あんなに意地悪で怖い人なのに、今は柚木先輩に会いたい。
先輩にも裏があったから?
理解してもらえると思ったから?
違う。そんなんじゃなくて、もっとストレートに…
そうー
ただ好きになってしまっただけ。
「あ…この音」
微かに聴こえるフルートの音色。
練習室かな…この音は紛れもない柚木先輩の奏でる音。
どんな嫌なことがあってもこの音色を聴くと心が落ち着く。
“お前も一緒に来るか?”
なんて言われて、一瞬戸惑ってしまった。
先輩にとって私は退屈凌ぎのおもちゃ。
だけど私にとって先輩はなくてはならない大切な人。
散々振り回されて、散々嫌なことも言われたけど…
私はやっぱり柚木先輩が好き。
だからー
そんな先輩と一緒に、もっと音楽に関わりたい。
先輩のキレイなフルートの音色に励まされ
再び弾いてみようと決意したヴァイオリン。
魔法のヴァイオリンじゃないヴァイオリンが奏でる音は
騒音に近いもので、もっともっと練習が必要だけど…
先輩を好きになった気持ちと同じで
ヴァイオリンが好きという気持ちは変わっていない。
“お前の根性は凄いよ”
そう言ってくれた先輩をがっかりさせないように。
ーENDー
≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
アニメ16話の後の設定。実はこれが一番最初に書いたコルダ小説でした。
今回は再び香穂ちゃん語り中心の片思いバージョン。
柚木の意地悪って結局、香穂ちゃんにとっては原動力だったと思います。
やっぱりお似合いな2人。いつかもっとこう告白止まりとかではなく、
ラブラブしたカップル小説を書いてみたいものです(*^^*)
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