白く曇った窓ガラスを見ると何かを描きたくなる。
ハートに三角、そして棒を一直線に下ろすー…相合傘の完成。

懐かしい。
小さい頃よくアカデミーの机や壁に落書きしたっけな。

片方には自分の名「アンコ」と書き、もう片方は空白。
みんなそれぞれ好きな人の名前を書いていたけど、
当時の私は好きな人がいなかったから空白にしていた。

だからこの空白の部分を埋める誰かが現れたら…
なんて小さいながらそんなこと考えていたわね。
口では言わなかったけど、
小さい頃に誰もが期待する「王子様」ってヤツを待っていた。


「お疲れ!それ何してるの?」

「…っテンゾウ!ビックリするじゃない」

「真剣に何か書いてたからさ、邪魔しないで見てたんだ」

「これ知ってる?」

「相合傘だっけ?アンコがそんなこと知ってるなんて意外だね」

「あーら私だって子どもの頃は夢見る少女だったのに!」

「はいはい」

「流さないでよ、恥ずかしい///」

テンゾウの適当な相槌にアンコは軽く睨む。
そんなアンコにテンゾウは思い出したかのように疑問を投げかけた。

「これってさ、反対側に好きな人の名前書くんじゃなかった?」

「そーよ。でも当時は好きな人がいなかったから書かなかったのよねー」

「へぇー…で、今は?」

その質問にアンコの心臓が活発に動く。
胸の高鳴りが止まらない。

「あーもう!この話はおしまい!さ、早く任務に行かなきゃ」

そう言い話を終わらせるように手早く任務の準備を始めると
速足でその場を立ち去った。


扉を閉めた途端、立ち止まりアンコは自分の指先をみつめる。


(私、何て書こうとした?)


脳裏に浮かんだ人ーそれがテンゾウだった。

これまでにも恋愛と呼ばれるものはそれなりに経験してきたけれど
好きになったらいつも自ら行動を起こし、
想いを伝えるのも私、終わらせるのも私。
恋愛なんて自分の欲を満たすだけのものだと思っていた。

だけどテンゾウへの想いはこれまでとは全然違う。

今までは自己中心的だった恋だけど、
テンゾウを想う気持ちは相手を尊重したい大切な気持ち。
心から好きで、自分を全てさらけ出すことを躊躇ってしまうくらい。


“好き過ぎて何もできない”


まさにその状態だった。

彼を想うと胸がドキドキする。
彼のことばかりで頭がいっぱいになる。
彼と一緒にいる時間が少ないと寂しくなる。

だけどテンゾウは?

この気持ちを言ったら迷惑?聞きたくない?
そもそも恋愛対象外?

言ってしまいたい気持ちと躊躇う気持ち。
反対の気持ちがぶつかり合い、結局いつも思い留まる。




そんなある日、アンコにとって絶好のチャンスが訪れた。

中忍試験の準備で上忍待機所へ行った時だった。
次々と中にいた上忍が任務へ出かけ、
気づけば部屋にはテンゾウと2人きり。
気持ちを打ち明けるには十分な環境だった。


(言うなら今しかない!)


そう心に決めてテンゾウに声を掛けてみる。


ーが、


「い…忙しそうね」

「いーや、ちょうど報告書出してきた所だから休憩中。アンコは?」

「え…うん、私も…そうね、暇かな」

「どうしたの?いつもの様子が違うね」

「そ、そんなこと―」

ダメだ。
テンゾウを見ていると伝えたい言葉が出てこない。
何度も頭でシミュレーションをした。こういう流れで言おうと。

いつもはサバサバしていて、男勝りなアンコだが、
目の前にいる好きな人の前では別だった。
言葉に詰まり、目を合わせることすらできず目が泳いでしまう。

顔を赤らめ、それを見られたくないから顔をそむける。
そんなアンコにテンゾウは容赦なく、普段と変わらぬ態度で近づく。

「ねぇ大丈夫?顔色が…」

「あ、そう、そうだ!私、用事を思い出したから行かなきゃー」

今日は止めよう、また次の機会にー

怖気づいてしまったアンコは、その場を去ろうと後退りをした。


その時、テンゾウの口から思いもしなかった言葉が発せられる。


「ねぇ、ボクが好き?」


…!!


驚いた。考え方によっては当たり前なのかも知れない。
言動や行動から察知するくらい容易いことだろう。

アンコは自分の気持ちが言わずして伝わり、
どうしようもない恥ずかしさと、戸惑いと、勢いで頷いてしまう。


「うん…」


後悔先に立たずー
いつも何かと先走って動いてしまい後悔するが、
今回ばかりは我ながら情けない。

この静まった空気も嫌だった。断られるなら早くー

そう思って恐る恐るテンゾウを見上げると、
彼はいつもと変わらない優しい笑顔で一言「同感だ」と。


「…うそ」

「嘘じゃない」

「でも…」

「嘘の方が良かったのか?」

「そんなことー」

信じられず不安な表情でテンゾウを見つめるアンコ。
テンゾウはそんなアンコの腕を引くと、そのままキスをする。

「…これで信じてくれた?」

「……///」

驚きと嬉しさでこの後のことは正直覚えていない。
とりあえず自分の想いを受け止めてくれた彼に
感謝をして1日が終わった…気がした。




付き合い始めて2週間くらいした頃、また窓が白く曇っていた。
アンコは指先でハートと三角を描き、棒をまっすぐに下ろす。

右側に自分の名「アンコ」そして左側にー

「…あ」

名前を書こうとした時、
後ろから指が伸びてきて、先に名前を書かれる。

「これで問題ない?」


相合傘が完成した。
右側には「アンコ」左側には「テンゾウ」の文字。

満足そうに笑いかけるテンゾウにアンコも笑顔で返す。


私にも現れた。
王子様とは呼べないけど、優しくて頼りになる素敵な彼。
何年もかけて、完成した相合傘。



ーENDー



≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
相合傘だなんて古風なテーマですが、
私がアンコさんを書くといつも野生ちっくなので、
乙女ちっくなアンコさんをテーマに書いてみました。
当サイトの作品の中では珍しく甘々。
お砂糖たっぷりなくらい甘いです(//▽//)
これをよく大人CPで書き上げたなぁと関心するくらい。。
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