◆第2話/再会と葛藤◆
あの不思議な出会いから1週間が経過したー。
まだ骨に入ったヒビは完全に治っていないけれど、
私はひとまず退院をし、家に戻ってきた。
病院にいても、考えるのはあの人のことばかり。
だからサクラに無理言って退院させてもらった。
ただし、家での安静を条件に…。
「ちょっと、店の手伝いは許可してないわよ?」
「げ…サクラ…。だって、じっとしているだけだと落ち着かなくて」
「まぁ骨も安定してるし、無茶なことさえしなきゃいいけど」
「…あ、あのさ……私を助けてくれた人から連絡とかない?」
「連絡?何も聞いてないわ。それどころか結局、
誰が助けてくれたのかも分からずじまいよ。…どうかしたの?」
「え、ううん、何でもない。ありがとう」
サクラが出て行くと、いのは窓を開けて外を眺める。
(あれから1週間、連絡なし…か)
当たり前のことだけど…それでも気になってしまう。
あの人どうしてるんだろ?
元気かな?何をしているんだろ?ーって。
入院していた時もそうだった。あの人が気になって仕方がない。
輝く笑顔から一転、最後に見せた裏の表情が気になり、
敵なのか、何か事情があったのか、はっきりせず胸がモヤモヤする。
せめてもう一度だけ会いたい。
そしてあの人の口から真実を聞きたい。
そう思いを募らせるいのだが、先ほどサクラから今回の件を
綱手に報告してくるようにと言われたことを思い出すと、
店を抜けて火影室へと向かう。
ーが、あいにく綱手は留守のようで、
タイミングが悪く、部屋には誰もいなかった。
「せっかく来たのにー」
そう、ふて腐れるいのだったが、
ふと机の上に置かれていた資料が目に入る。
資料を手に取ると、どうやらこの間のカカシ班の任務報告書のようだ。
砂の風影様奪還任務のことが書かれてあったが、
その横に戦闘相手の特徴など情報が少し書かれてあった。
「黒地に赤い雲が描かれた同じ装束を身にまとい…?」
これって……!!
あの時、出会った人が着ていたものだと気がつく。
いのは、まだ綱手が帰ってこないことを確認すると
その資料のファイルを開き、中を覗く。
詳しい資料には、その装束を身にまとった一員が“暁”と呼ばれる
犯罪組織に属しているということや、その一員には抜け忍や
S級犯罪者が多数だとか、メモ程度ではあったが、そう書かれてあった。
綱手が戻ってくるかも知れないということで
じっくり読むわけにはいかなかったが、
パラパラとめくり、ざっくりと資料に目を通す。
そしてー
組織の一員についてページで、いのの手が止まった。
「金色の髪、鳥型粘土、ナルトと交戦…」
いのが山で出会った男の特徴と完全に合致した。
認めたくなかったけれど、認めないといけない事実。
(やっぱりあの人は敵だったんだ…)
ショックだとか、悔しいとか、そういう思いも溢れるが、
同時に、やはりもう一度会って確かめたいと思ってしまう自分がいた。
いのは、もう一度あの森に行こうと決意をすると一旦店へと戻る。
まさかそこで会えるとは知らずにー
店に戻ると同時に、男が荒々しく入ってきた。
驚くいのだったが、その身なりをみて声をあげる。
「…っ…アンタ!!」
「…!?…お前この間の……っくそ…」
いのは問い詰めようと近づくが、
その足元を見て驚く。酷い怪我をしていたからだ。
「ちょっと怪我してるじゃない!……ほら足見せて」
先ほど見た資料が脳裏に浮かび、さすがに躊躇ったが、
足の怪我があまりに酷かったので、チャクラを使って簡単に治療をする。
「…お前、医療忍者だったのか?」
「治す代わりに全て喋るのよ!」
男はその取引に渋々頷く。
いのは素早く治療をすると、最後に包帯を巻いて止血をした。
「これでいいわ。まぁとりあえずの応急処置だけど」
「礼を言いたいところだが…この後どうするつもりだ?」
「…まずは、質問に答えて!…アンタ暁なんでしょ?」
いのは色々聞きたいことはあったが、
先ほど知り得た情報と、また偶然出会ってしまった動揺で
何から聞けばいいのかわからず、さっそく核心に迫る。
「……どうせ情報いってんだろ」
「答えて!」
「ったく…オイラは暁のデイダラ。趣味は芸術鑑賞。これで満足か」
「デイダラ…か。やっぱり暁だったんじゃない…」
聞こえないような声でそう呟く。
分かっていたことだった。
さっきの資料だけで、完全に合致していたから。
そして、聞いて楽になるかと思っていたが、
聞いたことにより、さらに気になってしまうのだった。
何であの時助けてくれたのか…とか、
何で里を抜けて、暁なんかにいるのか…とか
聞きたいことは山ほどあったが、デイダラと再び出会えたことで、
願いが叶った嬉しさからなのか、言葉が降りてこない。
2人の間に少しの沈黙を挟むと
次の瞬間、同時に思っていたことを伝えるー
「「……ありがとう」」
「…え…お前…!?」
「あの時、倒れていた私を助けてくれたのには変わりないでしょ…。
それに木ノ葉にも知らせてくれたって聞いたもん…変な鳥で」
「“変な”ってのは余計だぞ。
あれは立派な芸術作品なんだからな、うん!」
まただ。芸術を語る時のデイダラさんは
目がイキイキしていて、とてもキレイで引き込まれる。
何故だか、この人といると居心地がよくて穏やかでいることができる。
普通ならこんな相手に親切にしてはいけないのに、
普段通りにいかないこの気持ちは一体何?
「…ここ…お前の店?」
「そうよ。花屋さんって言ったでしょ」
「花がいっぱいでキレイだな、うん」
「でしょー!…っ…い…」
安静に、というサクラの忠告を忘れ動いてしまったため、
突然腹部が痛み、その場に座り込む。
「どうした!?」
「っこの間アンタがやったんでしょー。そのせいで肋骨に
ヒビ入ったってーの……っ…まだ完治してないから時々痛むのよー」
「わ、悪かったって」
「やけに素直じゃない」
「お前こそ忍の割に脆すぎ」
「…ふふっ」
「へへっ」
居心地が良かったのは、いのだけではなかったようだ。
デイダラもいのと話すと楽しく、そして最初に会った時と同様に
いののことが気になって仕方がなかった。
あー…そっか。
いのもまた、やっと自分の気持ちに整理がつく。
好きなんだ、私。
気になっていたことが全て繋がりスッキリした。
胸がモヤモヤしていたのも、全部デイダラさんが好きだからだ。
深呼吸をし、心を落ち着かせる。
そして、心の中で自分を説得する。
彼は敵。これから戦うかも知れない相手。
絶対に好きになってはいけない人。
何度も何度も自分の感情を抑えようと呪文のように唱える。
「…そ、そろそろ出て行って……もう手当ては…完了したんだから…」
必死に言葉を搾り出し、自分の想いを封印する。
「…あぁ、わかってる。…ありがとな、うん」
どこか寂しそうな表情をしたデイダラは、
そっと立ち上がると店から出ていこうと靴を履く。
その後姿を見て、いのの心に潜む2つの心が反発しあう。
これでいいの?
ーいいに決まってるじゃない!
後悔するわよ!
ーだって彼は敵なんだから!
本当に心からそう思っているの?
ーだって彼は
そうやって自分の心を偽って生きていくの?
ー無理に決まってる!!
恋なんてもっと単純なものだと思っていたのに、
こんなにも好きな気持ちを隠すことが苦しいなんて。
やっぱり私は自分を偽ることなんてできない。
例えそれがワガママだと言われても…。
迷いを消し去ったいのは、帰ろうとするデイダラに近づくと、
後ろからその背中をぎゅっと抱きしめる。
「…い…の…!?」
「……ごめんなさい……私、今まで嘘ついてた…」
「…お、おい…一体どうしたって…」
「…私は……デイダラさん、アナタが好きなの!」
ダメだと解っていても抑えられないこの気持ち。
いのは正直に自分の気持ちを吐き出した。
デイダラは一瞬驚いた表情を見せたが、
いのの手を振りほどくと、そのまま向きを変えて
いのを力いっぱい抱きしめた。
「……///」
「……嘘ついてたのは同じだぜ。オイラもいのが大好きだ」
ー第2話 ENDー
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