人によって落ち着く場所やものは違う。
ベッドの上であったり、お気に入りのぬいぐるみだったり、
静かな森の中だったり…。


私の場合は彼そのものだった。


ー猿飛アスマ。


下忍の頃から同じ班で任務をしていたこともあり仲が良く、
大人になってからも何かと同じ時間を過ごすことが増え、
忍としても、人としても尊敬し、気づけば互いに惹かれていった。

そして結ばれ、新しい生命を授かることもできた。
親になる自分たちを想像して、2人で未来を語り合った。


ーなのに、あなたは突然目の前からいなくなってしまった。




彼が死んだと聞かされた時、頭が真っ白になった。
あまりに唐突で、あまりに衝撃で、何も考えられなかった。
絶えず涙が溢れ、何をしていても涙が出る毎日だった。


しかし、時の流れは残酷で
どれだけ悲しみに暮れていても時間は過ぎる。


あれからもう1ヶ月が経過。ようやく落ち着きを取り戻し、
アスマのいない日々を過ごせるようになってきた。


…と周りには心配かけないようにそう言っている。


実際のところ、泣き続ける日々から抜け出したというよりは
涙が出ないところにまで堕ちてしまっていたのだ。


置いて行かれ、枯れた花のように私の心は干乾びてしまった。
残された写真を手に取り、彼の顔を思い浮かべる。


(いい顔してる…)


他にも、結婚指輪に、一緒に育てていた鉢植えの花、
記念日にもらった花束の写真、彼が吸っていたタバコのにおい…
この家にはアスマを感じるものがたくさんある。


ー目を閉じると彼がまだ此処にいる気持ちになれる。


忘れることなんてできない。それくらいあなたが大好きだった。
広すぎるベッドで1人横になり、お腹を撫でた。


「あなたは元気に育ってね…」







「なぁ紅…もしオレに何かあってもその子は産んでくれよ」

子どもができたと伝えてから数日後、突然そう言われた。
まるでその後を予言していたかのように。

「寂しいこと言わないでよ」

「オレたちの世界じゃ当たり前だろ?」

「そうだけど…」

「ほらこっち来いよ」

「煙草は妊婦に悪いのよ」

「吸ってない」

「うそ。あなたの煙草の量、知らないとでも思ってるの?」

「本当だ。ほら」

そう言って紅を抱きしめる。

ホントだ。
いつも服にまで染み付いていた煙草のにおいがしない。

我慢してくれているんだ。


「ありがとう」







トントンー

ノックの音で目が覚めた。


(…私ったらいつの間に…)


ウトウトしていたところまでは覚えているが、
どうやら彼を思い出している内に寝てしまったみたいだ。


扉を開けると実家の手伝い中であろうエプロン姿のいのがいた。

「お手伝いご苦労さま」

「紅先生にお届けものです」

「キレイな花…誰からかしら?」

その問いかけに、いのの視線が落ちたのが分かった。
そして願ってもいなかった一言が発せられる。

「アスマ先生から…です」

もう泣かない。
涙はもう出ない、そう思っていた。

なのにー

その答えを聞いて自然と涙が溢れ出る。

「…っどうして…」

「アスマ先生が頼んでいたんです。
 注文書に毎月花束を贈るように…この先10年間」

「…あの人いつも人のことばかり考えていたから…」

流れる涙を拭い、花束を受け取る。

部屋に戻り、さっそく水を入れて花瓶に飾り、
日の当たる窓辺に花瓶を置くと、目を閉じアスマを偲んだ。


(アスマ…ありがとう)


干乾びた私に最後の潤いを与えてくれたあなた。

切花だからすぐに枯れちゃうかも知れないけれど、
約束するわ。私はもう枯れない。

あなたの想いがある限り。


「……愛してる」


花束の隣にアスマの写真を並べてそう呟く。


次の日ー
その言葉を受け取ってくれたように、1つの蕾が花を咲かせた。



ーENDー



≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
アニナルのアス紅に触発されて初挑戦!ただただ切ない。。
10年間花を贈り続けるというのは某映画からのインスパイアです。
結婚記念日なのか付き合った記念日なのかは想像にお任せ…笑
本当はアスマとのラブラブなものを書こうと書き始めたのですが、
甘さなし、切なさいっぱいのシリアスな話になってしまいました。。
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