先週、友達に頼んで男の子を紹介してもらった。

今まで囲碁に夢中だったからまともに恋愛したことがなかったし、
気分転換ができる捌け口のような存在が欲しかったから…。

でもやっぱりダメだった。

飯島くんにはあっさり見破られたけど、
囲碁中心の生活が長い分、普通の男の子との恋愛は難しかった。

自分より若い世代がどんどんプロの道に進んだり、
院生を辞めたり、各々未来を切り開いていっている中、
自分もそろそろ諦めた方がいいのかな…
なんて、そんなネガティブな気持ちにさえなったけれど
結局、周りの友達のように普通の恋愛もできなかった。

そして、囲碁を休んでデートをした結果、
やっぱり囲碁が好きだと改めて認識した私は囲碁の世界に戻ってきた。

これからまた頑張ろう!
そう思って戻って来たのに…肝心の飯島くんが辞めちゃうなんて。


「…ホントに辞めちゃったんだ、飯島くん」


あの後、飯島くんが棋院に来なくなり、
院生師範に尋ねると、先日辞めていったと告げられた。

確かに先週「辞めよっかなぁ」とは言ってたけど…
まさか本当に辞めるなんて。


「ありがとうございました!」

戻ってから調子を取り戻した奈瀬だったが、
4連勝に喜び、いつものように後ろを振り返ってしまいハッとする。

そうだった。
飯島くんはもういないんだ…。

いつもなら後ろを振り返ると
飯島くんが見ていてくれて一緒に喜んでくれた。

負けたときはどこが悪かったのか一緒に考えてくれた。
不調の時も相談に乗ってくれた。


ライバルだけど、友達。


だけどそんな彼はもういない。


喜びたいのに喜べないなんて…。


対局表にも消えた“飯島”の文字。


でも…


院生を辞めたからってもう会えないなんて…。
連絡先だってお互い知っているのに何の連絡もくれないなんて…。

勝負に勝ったのにも関わらず、次第に苛立ちを募らす奈瀬。


そんな時、後ろで交わされる会話の中で
“飯島”の名を聞き、思わず振り返る。


「飯島、辞めたみたいだな。
 …でもさぁ辞めたい気持ちは分かるなぁ」

「オレもちゃんとした職に就いた方が良いんだろうなぁ…
 まぁでもこれでライバル1人減ったじゃん?」

「ああ。それは助かった」


何よ…。減ったとか、助かったとか、ライバルって、
私たちは仲間じゃない。

一瞬、奈瀬自身も正当な怒りを覚えたように苛立ったが、
少し間を置くと、自分の怒りもオカシイことに気が付く。

あれ…違う。
そうよ、私たちは仲間だけれど、ライバルなのよ。

だけど…私は帰ってきて欲しい。


色んな思考が奈瀬を惑わせる。


そしてー1つの答えに辿り着いた。


そっか。私、飯島くんのことが好きなんだ。


結論が出ると何だか胸の奥がスッキリした。


奈瀬は棋院を出ると、その足で飯島の家へと向かう。






「飯島くん、付き合って?」

「はぁ!?」

扉が空いたと同時に言われ、驚く飯島。

「だから、明日1日付き合って?明日研修なくて暇なのよねー」

「あのなぁ…何でオレなんだよ。オレはもう棋院辞めたんだぞ」

「だからって何の連絡もなしっておかしくない?
 それに飯島くん、勝手に辞めちゃったから怒ってるんだよ?
 だから1日デートで許してあげる!」

「はぁ!?それに何でデ、デートなんだよ…」

「いいからいいから!明日1時に○△公園の前で待ち合わせね!」

「お、おい!」

「来ないと怒るから!じゃあ明日~」

奈瀬は一方的にそう言い残し、去って行く。
残された飯島はただただ唖然として、その場に立ち尽くすのだった。





次の日ー

少々強引に誘ってしまったので来るか、来ないか正直不安だったが
思っていた通り、真面目な飯島くんは約束を破ることはしなかった。

「よかった…来てくれたんだね」

「まぁ…。で、どこ行くんだ?」

「ん~とりあえずボウリングでもどう?」

「奈瀬にお任せ」

いつもと変わらず口数が少ない飯島を見て、
少し強引に誘いすぎたのかも…と後悔をする。

好きな気持ちを率直に伝えても良かったけれど、
自分の気持ちが本当かどうか確認しようとデートに誘った。

これまで棋院以外で会うことがなかったので
囲碁の話以外で楽しめるのかとか、不安な気持ちがあったからだ。


不安でやってきたボウリングだったが、正解だった。

カラオケやファーストフード店だと、
ずっと相手を見て話すため、よそよそしくなるところだったが、
ボウリングだと交互に投げ合うため、
その間に話もできるし、彼の自然な姿が見られる。


「くっ…1本残ったか」

「え~~私なんて4本も残ったのに…」

「年下に負けたくないからな」

「ふふっ飯島くんらしいなぁ」

「何だそれ」

「さぁ次は私の番ね!よーし」

「…あ!…ちょ…奈瀬こっち」

意気込んで投球しようとした瞬間、
突然腕を引かれ、飯島の隣に座らせられた。

少し強引に引っ張られたので、ドキッとした奈瀬だが、
どうやら隣でプレイしている奴らが原因のようだ。

ため息をつき、耳元で「帰ろう」と呟くと、
奈瀬の手を引きそのまま店を出て行った。





店を出ると、飯島は奈瀬の手を放す。

「どうしたの?アイツら何か言ってた?」

「ハァ…いや別に。ただ……その格好でボウリングはマズかったな」

「え…?」

そう言えば、特に行き先を考えていたわけじゃなかったので、
いつものようにミニスカートだった。

飯島くん曰く、どうやら私が投球していた時に
携帯のカメラで盗撮をしようとしていたそうだ。

「そうだったんだ…ありがとう」

「…いや…それよりどうする?まだこんな時間だけど?」

「…じゃあさ、碁会所行こ♪」

「碁会所!?」

「そ。いいじゃない♪」


流されるように碁会所へ連れて来られ
戸惑っていた飯島だが、次第に囲碁を打つ楽しさを思い出す。


「…あーっ…負けました!」

「ありがとうございました」

「ちょっとー!飯島くん、腕落ちてないじゃん!」

「奈瀬も強くなってる」

「ホント!?やった!…あ、おじさん久しぶりー!」

通りかかった中年の男性に手を振り挨拶をする。


「さては前にデートで行ったのここだろ」

「あ…バレちゃった」


囲碁に無縁の若い男がここへ連れて来られた時を想像すると、
この場所は初デートにはあまりに不釣り合いで思わず笑ってしまう。


「ん?」

「いや…お前おもしろいなぁって思って」

「ちょっとーどうせなら可愛いとかのが嬉しいのに」

「あ、そ」


そしてこの日は何局か打って解散に。

飯島は駅まで送ると言ったが、
デートに付き合わせたのは自分だと言い、奈瀬が家まで送る。


「ったくお前って意外と頑固だよな。普通女に送らせないだろ」

「いいの。私が強引に誘ったんだし」

「でもまぁ、もうじき暗くなるから、ここでいいって。
 じゃあな。………あ、強引だったけど楽しかったよ」


結局家の前まで送ってもらい、飯島は家へと帰って行った。


家に着き、扉を閉める。


ーその途端、インターホンが鳴った。


扉を開けるとー



「付き合って?」

「っな、奈瀬!?お前帰ったんじゃ…!?」

「だーかーらー付き合って?」

「…今度はどこへだよ?」


呆れ顔で戸惑う飯島に、少し間を置いて口を開く。


「だから私とだよ。…えっと…私と…付き合って下さい」

「ええっ!?」

「棋院にいる頃から話合うし、気になってた。
 だけど今日遊んで自分の気持ちがはっきりしたわ。
 私、飯島くんが好きみたい。どう?」

「ど、どうって…」

「前に言ったでしょ?普通の人と付き合うの難しいって。だからー」

「…そ、そりゃオレも奈瀬のこと、嫌いじゃないし、嬉しいけど…。
 オレもう院生辞めて普通の人だし…」

「違うわよー!飯島くんは私の好きな人!普通の人じゃないわよ」

「無理やりだなぁ…」

「で、返事は?」

「……いいよ。オレで良ければ」

「ホント!?ありがとう~!」

そう言うと飯島に飛びつく。

「お、おい…//」

「いいじゃない恋人になったんだからー」

「………そうだな」



ーENDー



≪あとがき≫
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
飯島奈瀬というと、マイナー扱いだと思いますが、
18巻出る前からこの2人の関係が好きだったんです。
和谷とも良いけど、飯島とも良いなぁって(*^^*)
だから18巻の特別編が出た時はビックリでしたね。
まさかリアルでこんな絡みがあるとは!
それで嬉しくて書き上げたものでした。
年下の奈瀬に押されまくりの飯島が書けて楽しかったです。
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